巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面110

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳     

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                 第百回

 
 どの様にして話の筋を、自分が考えている方にもって行こうかと、侯爵夫人は密かに考えた結果、あわれみをふくんだ目でセント・マールス夫人の顔を見て、「それにしても今まで、まあ、好くもこんな土地で我慢が出来ましたね。毎日どの様にして暮らしているのですか。貴方の話相手になるような、気のきいた女はこの土地にはいないでしょう。それを思うと本当に貴方が可愛そうです。」と言い、更に思いだしたように「ああ、一人だけ居ますね。この土地の知事ハレルビ侯爵の夫人が。もっとも先日私が訪ねたときは不在でしたが。帰って来れば貴方と好い友達でしょう。え、あの方なら。」

 妻は悲しげな顔をして、「ところがそうではないのです。あの夫人はお高くとまり、なかなか私どもへは目もかけません。それに知事とセント・マールスは非常に仲が悪いのです。」「ええっ、何を言いますか。知事と当家の主人が仲が悪い? そんなことは無いでしょう。」「いや、そうなのです。」「とは又どういう訳で?」「こうなんですよ。まあ、聞いて下さい。今までの守備隊長は皆知事の機嫌をとり、「へい、へい」を言ったそうなのすが、家の主人はそれ、大宰相から直接命じられた役目なものですから、知事も、自分も対等だと言って、少しも知事にへつらいませんので、それを目ざわりにしているのです。」

 「そんなことならなおさらこの土地には居にくいでしょう。話相手にする婦人もいなくては、これではどうしても至急に転任してもらわなくてはいけませんね。」「はい、本当にお察しの通りです。その上困ることは、知事夫人がひとかたならず私を恨むのです。」

 「おやおや、益々いけませんね。」「いいえ、それもこうなんです。この砦がこの通り飛び離れていますので、世間から中の様子が分からないものですから、政府から次々と大事な囚人を預けるようになりまして、知事夫人はそれがうらやましいのです。うらやましいものですから、色々と私に聞きたがりますが、私も妻の身として夫の仕事上の秘密は話せませんので、話さないものですから、ましてや夫だけの秘密ではなくて、国家の秘密ですから、ですから私が何も聞かせて上げないものですから。それがしゃくにさわると言うことですが、どうも仕方が有りません。」と段々夫人の前に慣れるにしたがって、心をあかすような話ぶりで、自慢するように話だした。

 この様子では自分が聞きたいと思うことを、聞き出すのは大変だと思ったが、少しもがっかりせず、かえってこれをきっかけとして「そうそう、ここに宮廷から大事な囚人を預かっているとさっきもセント・マールスさんから聞きましたっけ。でもわざわざ宮廷で預けるほどなら、必ず身分のある囚人で、いつでもルイの機嫌が直れば又すぐ取り立てられるでしょう。」「そうですとも、どちらも立派な肩書のある人ばかりです。」

 「ああ、それだけが貴方のおなぐさみですね。時々それらの囚人に会ってやり、貴方が獄中のうさを慰めておやりなのですね。おお、そう聞くと私までうらやましくなります。それほど身分のある囚人なら、貴夫人に応接する礼儀作法も心得ているでしょうし。」と夫人が立て板を伝わる水のように、よどみなく話すと、セント。マールス夫人はあわてて、「いいえ、いえ、いいえ、なかなかそうではないのです。どうしても宮廷の命令が厳しく、私などは会うことは出来ないのです。当分の間は主人以外、誰も囚人の顔は見られないのです。」

 カスタルバー夫人は非常に驚いた様子で、「えっ、それは本当ですか、あなたさえ、」「はい、そうですとも、私だって、誰だって。」「でも、それを貴方は残念だとは思いませんか?今のうちに良くいたわってやり、十分貴方の親切を示して置けば、先方も身分のある人ですから、いつか許されて宮廷に帰った時、又どの様に貴方を引き立ててくれるかも知れませんね。それなのに面会もしてやらず、知らない顔をしているとは、余りにばかばかしいでは有りませんか。」

 「それはそうですね。はい、本当に私も時々はそう思うことが有ります。そう思って主人に話さないでも有りません。」なにしろ余りに厳しすぎます。いくら宮廷の命令でも、時々勤め先を変えてくれないなら、私なら決して言うことは聞きませんよ。」と徐々におだてたりすかしたりしたが、もちろん互いに差向い、大きな声は出していないので、部屋の向こう側で従者らを相手にしているセント・マールスの耳には入っては居なかった。

 しかし、彼はそろそろカスタルバー夫人に、歓迎の杯を差し上げる頃だと思ったのか、コップを手にうやうやしく近寄って来て、夫人の前に立とうとするので、悪いところに来たなと思う気持ちを投げやって、かえってここだと度胸をきめて、彼がまだ一言も言わない中に「セント・マールスさん、セント・マールスさん、貴方にお願いが有りますが、貴方聞いて下さいよ。」と軽い言葉で念を押すと、セント・マールスは益々満足の様子で、「お願いなどとそうおっしゃられては恐縮です。貴方の望みなら私に取って命令も同じです。何なりと、さあ、お伺いしましょう。」

 「いや、そう言って下さると思うからお願いするのです。私に囚人を見せて下さいませんか?」囚人をおもちゃか何かのように、誰にでもたやすく見せられるもののように、無邪気に言い放った。バイシンの大胆さも、ここにきて行き着くところまで来たと言うべきか。

つづきはここから

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