巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面20

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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          第十一回                                    

 さても、あの白ベッドでオリンプ夫人を無きものにしようと企(たくらむ)んだナアローは、翌朝オリンプ夫人が逃げ去り、その代わりにその侍女が死んでいるのを見て、ことのほか驚いたが、今更どうしようもないので、失敗をアイスネーの不注意のせいにして,
ひどくアイスネーを責めただけでなく、パリのルーボアに事細かに報告したと言うことだ。

 しかし世間に対しては露ほどにも、オリンプ夫人を殺そうとした事などを、知られては大変なのでひた隠しに隠し、通例の死人を扱うようにローレンザの死体を扱い、早速医者を呼びその死体を改めさせたが、医者もこれと言って疑うような事もなかったので、脳卒中と同じ様な原因で急に死んだのだろうと言うことにし、その日の内に近くの教会の墓場に葬った。

 ただ、オリンプ夫人の失跡については彼も少し心配をしたが、たぶん夜の内に用事でも思いだし、急に立ち去ったものだから、明日にでもなれば必ず帰って来るだろうと、何気なく見せかけていた。けれどもこのことに付いて、最も当惑したのは夫人の従者ヒリップだった。彼はただ一人残されて、この後どうしたらよいか分からなかったので、今にも夫人から何か指図をして来るだろうと、一日、二日を待暮らしていたが、夫人からは何の連絡もなかった。
 
 ただ下僕たちの噂話によると、町外れのある宿屋に、オリンプ夫人に好く似た、立派な泊り客があると聞いたが、それだけでは何の助けにもならず、三日目の日はほとんどふさぎこみ、ナアローから与えられた部屋に閉じ込もり、ため息をつきつき考えていると、ナアローがにこにこしながら入って来た。「オオ、ヒリップさん、又そんなにふさいでいるのか。男なんだからもっと気を大きく持ちなさい。」と言い、慣れ慣れしげにヒリップの前に腰をおろした。

 ヒリップは少し恨むように「気を大きく持てと言われても、この後どうして良いか、私には少しも分かりません。」「ナアニ、君が心配することはないよ。あのように気の軽い夫人に使われていれば、この様なことは良くあることだと思わなければ、やっていられないよ。荷物その他は、私がパリの夫人の屋敷へ送り届けるから。少しも君には心配は掛けないよ。」

 「イヤ、荷物などは捨ててしまっても、惜しいと言われる夫人ではないが、このまま夫人に捨てられてしまっては、私の身の振り方に困ります。」ナアローは声高くうち笑って「何だい、そのような気の小さいことがあるか。君も侍女ローレンザを可愛がったのだから、初めから夫人に捨てられる気でいなければ」ヒリップは顔色を変えて「何とおっしゃります。」

 「隠しても駄目だよ。私は何もかも知っているよ。夫人は焼き餅が半分でフラフラと出て行ったのだから、君が再び夫人の機嫌を取り、それによって出世をしようと思うのは間違いだ。見ていたまえ、夫人はこの後、君に仇をするとも、決して君のためを思ってはくれないから。こう言えば驚くだろうが、夫人ばかりが主人ではないよ、もっと現政府に力を持っている大政治家を主人にしたまえ、エ、君、ここらが牛を馬に乗り換える時だぜ。」

 この甘い言葉を聞き、ヒリップは心配が少し和らぎ、ほっとした顔になったが、またたちまち顔を曇らせながら、「そのような有力な政治家にコネが有るようなら、何も心配はしませんが、名もなく、手柄もない私のような者が、どうして有力な政治家に、引き立てられるような事ができましょう。」と嘆いた。

 ナアローは腹の中で「こやつは、なかなかの薄情者だ。夫人の事を心配しているのかと思ったら、そうではなく、ただ自分の出世の道が無くなるのを、心配しているだけだ。だが、そのような男だろうと見抜いた、この俺様の眼力も大したものだ。しかし、今度の役目を任すには、この男に優る者はおるまい。」

 「男爵アイスネーの様な奴は、女にだまされることはあっても、なかなか女をだます、などと言うことはできないが、こういう男はそうではない。女をだますように生まれ付いている。顔つきは男でも惚れぼれする程美しく、口もうまい、おまけに心が薄情と来ているから、アア、実に良くできた人間だ。」

 「この男に秘術を尽くさせ、それで心が動かぬとすれば、バンダ嬢は女じゃない、木石と言うものだ。」と何か分からないこと独り言して再び声を出して「どうだ君、私が口利きで君を大政治家に取り持とうじゃないか。」ヒリップは少し考えて「エ、大政治家とはどなたですか。」

 ナアローは医者が劇薬を垂らすように、一滴一滴その言葉に用心して「大政治家と言えば一時に二人はいない、大宰相リュシュリーが死んでからはマザリンさ、マザリンが死んでからは僕の主人のルーボアさ、どうだ君、ルーボアが君を雇いたいと言っているが、エ、君、ルーボアとオリンプ夫人どちらをとる?」この上も無いうれしい問いに、ヒリップは今までの心配に取って変わって、美しい顔を更に一層美しくして「ご冗談でしょう。私をおなぶりになるのでしょう。」

 「なに、冗談など言うものか。」「でもルーボア様(と早くも様付けをして)が私などをお使いくださるはずが有りません。」「ルーボアは使わなくても、私がルーボアから、誰か適当な人物を雇い入れるように頼まれている。」そうすればルーボアが雇い入れるのではなく、実際はルーボアをだしにして、ナアローが雇い入れるのか。ナアローの個人の雇人ならば、出世したところでたかが知れていると、少し熱がさめかけて、「そうですね、雇われた上で、どのようなことをするのか、よく用向きを伺った上でないと」

 「役向きはごくごく君に最適の仕事だよ。」「報酬は」「報酬は私の眼鏡で決めるのさ」「では、つまり貴方の雇人ですね。」と意気込みが益々鈍りかけて来た。

第11回終わり

つづきはここから

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