巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面71

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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2009.7.28

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              第六十二回

 杖を頼りに入って来る黒頭巾の様子を見ると、なるほど彼は病後の疲れに耐えられないのか、息をするのさえ苦しげだった。今まで彼の顔の噂をしていた乞食共は、彼の顔の恐ろしさに身の毛も逆立つ思いをしていたばかりだったので、化物にでも会ったように、互いに自分の背後を見ながら無言で体を寄せ合っていると、彼はこのように恐れられているとも知らないで皆の側に寄り、「どうです皆様、今夜は一仕事手伝っては貰いませんか、前から話してたもうけ口が、いよいよ見つかりました。」と頼むように言う声は、乞食とは思えない優しさだった。

 この声から想像すると、彼の顔がそんなに恐ろしい顔だとは思われなかったので、さっきの乞食は勇気を出して「もうけ口と聞けば手伝ってもやろうが、どんな事なのか良く聞いてからでないと。」「いや、どんな事なのかは話しても分からない。ただ私の頼むとおりにしてくれればそれで良いのだ。」乞食も少し元気になり「前金で雇われる仕事と違い、もうかるかもうからないか分からない仕事では、どんな仕事なのか前もって分からなければ、その仕事には乗れない。なあ、皆」

 「そうとも、そうとも、又例の国家の秘密と言う奴なんだろう。そう、病み上がりの弱々しい姿では、あまり大臣ルーボアに礼を言われそうにも思えないぜ」本気になって相手にして貰い無いので、黒頭巾は残念と思ったのか、壊れたバイオリンをガラリと落して「皆さんは私を馬鹿になさる。元はこれでも陸軍でサアベルの一本も差した男だ。」

 「今じゃ杖一本ついているのか?」「そう馬鹿にしないでください。体さえ丈夫なら皆さんには頼みませんが、何と言ってもこの通りで、歩くのさえやっとですから、折入って頼むのです。皆さん、いや、どなたでもただ一人、だまされたと思って手伝って下さい。それも、ただ頼みはしません。もうけはきっと山分けにします。
ああ、こう言っても誰も手伝ってはくれないのですか。今夜を見逃せば、又ちょっとやそっとでは巡っては来ない事なのに」と深くため息をする様子はいかにも本当らしいので、恐ろしい顔の話も忘れて、一人の乞食が「それほど残念なら俺が手伝ってもやろうが、もうけは本当に山分けか?」

 「それは確認するまでもない。きっとそうする。」「だが、骨の折れることなら後免こうむるよ。余り疲れては、明日もらいに出られないから」「なーに、お前さん達のような丈夫な体には、疲れるほどの事ではない。ただ歩きさえすれば済むことだ。詳しいことは歩きながら話すから、さあ、すぐに来て下さい。こういう中にも夜がふける。」と言い、バイオリンは椅子の上に置いたまま、杖にすがって又外に出たので、乞食は立ち上がり笑いながら二人の乞食に向い「物は試しだ。あいつの言う通りにやってみよう。」と言う言葉を残し、そのまま黒頭巾の後に従って外に出ると、黒頭巾は重い体を引きずりながらゆっくりと歩き「実はな、ある女の住んでいる所を突きとめるだけなんだ。」

 「何だ、それでは探偵のする仕事だな。」「そう言えばその通りだが、探偵と言うほど難しくはない。」「だって、何か手がかりが無いことには」「あるとも、あるとも、大ありだよ。今夜その女と言うが、ローヤル街の角の屋敷に来ているから、その帰る時まで待って、後をつけて住んでいるところを見つければ、それでよいのだ。」「たったそれだけの事か? 」「そうさ、これだけの事だから私が足さえ丈夫なら自分一人でするのだけれど」「そうして金は何処でもうかる?」

 「なに、今夜すぐにはもうからないが、明日でも私がその住居に行って」「うむ、その女をゆするのか?」「そうさ、世間を忍んでいる女だからゆすっても好し、又その女を捜している人に知らせても好し、どちらにしても、もうかるのだ。」「そいつはなるほど面白いな、」「なあに、まだそれだけではないのだよ、それで少しでも金をもうけ、身なりさえこしらえれば、私は王族のところに行ったり、貴夫人のところに行ったりして、おまえ達の二人や三人を安楽に養うだけの資本はすぐに出来るのだが、何分この通りの身なりでは、第一門番にすぐ追い払われてしまうし、それに顔が昔とは」

 違っていると言い掛けて、すぐに気が付いた様に話題を替え、「どちらにしろ先ず少しの金を得て、何処の家にでも入られるだけの身なりからこしらえなければ」「身なりが出来れば俺達に様はないのか?」「なにそうではない。ああ、話をしている間にほら、約束のローヤル街に来た」と立ち止まった。この時夜はもう十二時を過ぎていて行き交う人も無かったので、黒頭巾は安心した様子で一方の角にある家を指さし、「あの家から出て来るのだよ。」

 「あれか、あれはお前、バイシンという名高い女占いの家じゃないか。」「それは知っているよ。」「何時出て来るか知らないが、こうしてここで待っていよう。」「ああ、お前がここで待っていてくれるなら、私は向こう側に行き、その女が出て来たとき顔を見よう。どちらにしろ夕方のうちにあの家に入るのを見て間違いはないと思うが、正面に回って今一度その顔を見ないことには何とも言えない。それで、もし間違っていたら私はすぐここに帰って来ることにしよう。実際にその女だったら何気なく向こうに行ってしまうから、その時にはお前がすぐに後をつけるのだよ。」

 「よしよし、そうしてその女が何町の何番地に入るのかを見届けて来れば良いのだな。」「その通り、その通り」と言い、彼は満足した様子で向こう側に立ち去った。そもそも黒頭巾の身の上は分からないが、この者がこの様に付け狙っている女こそ、あのバンダで有ることは読者の既に推察するところだと思うが、一人バンダだけはこの事を知らないのだ。

 コフスキーと供にバイシンから色々な指図を受けて、またの会う日を約束し、その裏門から出て、表の方に出て来て薄暗い外灯の下を通り過ぎた所で、一人の乞食が杖を突きながらバンダの方に近ずいて来た。もちろんこの様なことは、有りがちな事なので、さては物を貰うつもりだなと思い、バンダは自分のポケットから何枚かの小銭を取り出しているうちに、早くもその乞食は目の前に来たので、「ソレ」と言って投げ与える瞬間に改めてその乞食を良く見ると、これはどうした事だろう。彼が黒い頭巾を被っている様子は、かってセント・ヨハネ寺院で秘密の手箱を堀だし盗んで行ったあの怪物とほとんど同じだったので、バンダはゾッとして踏みとどまると、その間に黒頭巾は銭を拾って何処かへ姿を隠してしまった。

 一緒にいたコフスキーはバンダのただならない驚き方を見て非常に怪しみ、「何事ですか? え、何をそんなに驚いているのですか?」と聞けども、まさかあの時見た黒頭巾と今見た黒頭巾が同じ人で有るはずが無いと思い、バンダはただ自分の気の迷いと思って「なに、乞食の頭巾が変に見えたのでびっくりしただけの事だよ。」と言い、深く心にとどめずにこの場所を立ち去り、やがて自分の家に帰ってみるとルーボアから来た一通の手紙があった。明日の夜は医者を連れて病気見舞いに行くと言う事を書き記してあったので、バンダはいよいよこれから辛い役目が始まるのかと、胸が高鳴るのを感じた。

つづき第63回はここから

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