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武士道 一名「秘密袋」   (扶桑堂書店刊より)(転載禁止)

ボアゴベイ作  黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

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  武士道上編 一名「秘密袋」                   涙香小史 訳

               第四十五回

 縄村中尉は腕八の言葉を聞き終わり、暫(しば)しの間考へ廻していたが、弥生を救い出す道は唯彼の請いを聞き入れる一つしか無いので、
 「宜(よ)し、承知した。貴様が弥生を救い出しさえすれば、貴様の目の前で秘密袋を開き、其の中の書類を悉(ことごと)く貴様に読ませてやる。是だけで貴様は満足だろう。」
 腕「ハイ、其の書類を読ませて呉れて、愈々(いよいよ)其の書類に弥生嬢を薔薇(しょうび)夫人の大金の相続人と定めてあればその大金の半分を私へ分けるという事にして下さい。」

 中尉は金などの事に心を置か無い軍人のことなので、簡単に、
 「承知した。」
と答え、更に、
 「シタが、貴様は一生懸命働かなければ了(いか)んぞ。若し弥生嬢を救い出す事が出来なければ、俺が貴様を射殺すからそう思え。」
 腕「勿論私も一生懸命に働きます。弥生嬢を助けなければ薔薇夫人の大金を失うのですから。助け損なうのは、貴方より私が辛いのです。」

 なるほど其の通りなので、中尉も腕八が一生懸命に働くべき事だけは認めたが、猶、
 「イヤ、此の上に聞いて置きたいのは如何言う手段を使って弥生嬢を助けるのだ。」
 腕「其れは先ず弥生嬢の殺される水遊会の有様から話さなければ分かりません。嬢は明夜の水遊会で殺される。」

 縄「コレ、俺の前で水遊会などという無惨な言葉を使って呉れるな。」
 腕「ハイ、使いません。明夜大河へ沈められる事に極まっていますが、全体大河へ沈めるのは船の底へ大勢の囚人を詰め込み、甲板の窓を塞いで上へ出られ無いようにして、爾(そう)して船の底にある栓を抜くのです。之を抜けば水が入って囚人は船と共に沈みます。併し斯(こ)うしては水の底で囚人等が苦しみ死ぬ様子が分からず、水遊会の楽しみが薄いと言うので、、、」

 縄「又、水遊会などと言うか。」
 腕「ツイ口がすべりました。係りの者の楽しみが薄いと言うので、其の半分は手足を縛って甲板から投げ込みます。
 縄「実に許すことが出来ない無惨な事をする。弥生嬢もその様な目に逢う筈か。」
 腕「其れは無論です。それだから明夜私が船に乗り、嬢を船の底へは入れず、外の投げ込まれる連中と共に甲板に立たせて置くように計らいます。」

 縄「爾(そ)うして如何(どう)助けるのか。」
 腕「イヤ、愈々(いよいよ)投げ込む時になれば、私は一人でボートに乗り移り、其の船の近辺に浮かべて、投げ込みの始まるのを待って居ます。投げ込まれて水面へ浮び上がる奴を片端から叩き殺すが私の役目ですが、爾(そう)して弥生嬢が投げ込まれたと見たら、其の浮いて来るのを待ち、私が叩き殺すと見せ掛けて、実はボートの中に引き上げて助けます。ナニ大丈夫です。どんな奴でも投げ込まれたら、必ず一旦は浮いて来ますから。」
と説明した。

 これは助けるとは言え、その実は極めて危険なる助け方にして、当人に非常な苦痛を与えるばかりか、或いは少しの手違いで助け損なう恐れも充分に有るべき事なので、縄村中尉は眉を顰(ひそ)め、その様な事では了(いけ)ない。最安全な工夫は無いか。
 腕「如何(どう)して、如何(どう)して、此の外にはとても有りません。此の上も無い厳重な獄ですもの。併し、ナニ是で必ず助かりますよ。キッと水の上へ浮き上がりますもの。」

 縄「たとえ浮き上がっても、当人が既に水を飲み、助から無い様に成って居たらどうする。
 腕「ナニ、一度沈むと直ぐに浮き上がります。それ程水を呑む暇は有りません。」
 縄「若しボートへ引き上げる時に外の者に発見されたら、」
 腕「イヤ、暗いから外の船に居る者には分かりません。」
 縄「爾(そ)う暗ければ、浮き上がる所を見誤る恐れもある。」
 腕「イイエ、私などの目は暗いところでも猫の目くらいに利きますよ。今まで此の仕方を以って既に三人ほど私が助けて遣った経験が有るのです。是でもしあなたが不承知なら、止める外は有りません。此の外には全く助ける方法が無いのです。」

 外に方法が無ければ此の危険な手段に訴えることも止むを得無い。
 縄「仕方が無い。それでは貴様の乗る其のボートへ俺も一緒に載せてくれ。外の船から認められないほど暗いなら、俺が軍人の姿で貴様と一緒に乗って居た所で誰にも見咎められは仕舞い。」 
 腕「ナニ相乗りなさらずとも私一人で大丈夫ですけれど、貴方がそれほど不安心に思うなら、致し方有りません。ボートへ一緒にお乗りなさい。」

 是で大体は決まったので、更に細かい所を打ち合わせるうち獄の鐘は九時半を報じた。」
 腕八は、
 「アア、獄を見回る時間が来ました。是で明夜までお分かれにしなければ成りません。」
と言い立ち上がる。

 これは獄を見回る為では無く、桟橋で逢う約束である黒兵衛の所へ行こうとしている為であることは明らかだが、中尉は早く黒兵衛にも此の者を逢せようとの心なので、唯
 「爾(そ)うか。」
とだけ言って其の立去るのに任せた。



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