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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面138

鉄仮面    

ボアゴベ 著  黒岩涙香 訳  トシ 口語訳      

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                 第百二十八回

 
 仮面を脱がした死骸の顔、アルモイス・モーリスの面影だろうと思いきや、見るも恐ろしい骸骨だった。骸骨にわずかその額と頬のあたりに黒くひからびた皮が残っていた。ああ、モーリスは一昨夜死んで、わずか四十八時間の間に早くも肉腐り、血ただれて骸骨となったのか。

 いやいや、そうではない、これはモーリスの死骸ではなく、かって黒頭巾に顔をかくし、ヨハネ教会で秘密の箱を掘り出そうとしただけでなく、その後も一同につきまとい何度か一同を驚かした怪物であった。

 その瞳は流れだし、丸い目玉はむき出しになり、また、鼻は腐れて消え、一つの深い穴になっていた。唇はなく、長い歯がとがってむき出しになっている所など、全く骸骨とそっくりで、特に、その頬から顎の辺にひからびた皮の上に、あたかも豚の毛のように、こちらに一筋、あちらに二筋、長い毛が非常にまばらに伸びた様子は、恐ろしいとも醜いとも言いようが無く、人と言うより全くの怪物である。

 かっては、彼はこのような恐ろしい仮面をかぶり、その上に黒い頭巾をかぶっているものと思っていたが、仮面ではなく、素顔だったのだ。正真正銘の怪物である。バンダが気絶するほど驚いたのも無理はない。考えてみると、この者は自分の顔がこのように醜いため、誰一人恐れない人は居ないので、やむを得ず頭巾で顔を隠していたのだろう。それにしても、この者は何者だろう。なぜ鉄仮面をかぶせられたのだろう。彼は本当の鉄仮面がペロームからバスチューユに移され、バスチューユからピネロルに移された時まではまだパリをうろつき回っていた。

 絶対政府の手先に使われていたことは確実なので、彼が何時の間にやら鉄仮面をかぶせられ、今ここにいる一同に掘り出されたのか全く不思議という以外はない。コフスキーもブリカンベールもただ驚いたまま一言も発することが出来なかった。しばらく目を見張って居るだけだったが、この時、「ウーン」と一声叫び、ようやく我に返ったのはさっき気絶したバンダだった。

 二人は初めてバンダの事を思い出し、ブリカンベールは早速抱き起こそうとそこに体をかがめた。コフスキーは叉再びバンダを驚かせてはいけないというように、あの白布を棺から出して、これを死骸の顔にかけた。もともとバンダの気絶は、一時的に驚いたことから起こったものなので、介抱する間に全く元に戻った。それで、ここで三人は額を寄せ合って、このことを考えてみた。どちらにしろ、今回の計画は全く失敗して、セント・マールスが本当の鉄仮面の死骸と、この死骸を取り替えて鉄仮面をかぶせたのか、それとも、他にわけがあるのか知る方法は全くないが、とにかくバイシンの考えで、最期にやるべき方法として実行した計画が失敗したからには、このほかにやるべき手段は無い。

 いろいろな議論の結果、この怪物に生き返る薬を飲ませ、生き返らせて聞くのもまた一つの方法と言うことになった。その身の正体からどうして何時牢獄に入れられたのかを問いただし、この者の知っていること全てを聞けば、叉、どんな手がかりが得られるかも分からないと、ようやく考えがまとまったので、コフスキーが一人で死骸を隣の部屋に抱いて行ってバイシンから指図された通りに生き返り薬を飲ませた。

 これから、約一時間後、夜も早十二時を過ぎたが怪物は生き返らなかった。今までバイシンが何度も試した霊薬なので効き目が無いはずはないのにと、皆不思議がったが、生き返らないものは仕方がなかった。考えてみると、この薬は作ってから何年も経ってしまったので、その効力を失ってしまったのか、それとも、怪物が死んでから四十八時間以上過ぎてしまった為なのか、その原因はどちらにしても、皆の絶望は一通りでなかった。

 事ここに至っては、誰を恨み誰に苦情を言ったらよいのか。三人とも同じようにうなだれ、ただため息を吐くばかりで、何の考えも浮かばず本当にかわいそうとしか言いようが無かった。このままにして置いたら、三人とも、夜が明けるまで考え込み、我を忘れてしまうのではないかと思われたが、こんな時、静かに小屋の戸を開け入ってきた人がいた。

 この人こそこの教会の長老のギロード師だった。師は哀れみの涙を目に溜め、「ああ、不幸な子ども達だ」とつぶやき、ひどく打ちひしがれていた皆の様子を見やった。そこで、ギロード師が入っていることに初めて気が付いた三人のうち、コフスキーとブリカンベールは驚いて立ち上がり、鋭い目つきで長老をにらみつけたが、それは油断がならないと言う警戒からだった。

 バンダは椅子から床に崩れ落ち、膝のまま長老の所にいざりより、よじ登るように長老の膝にすがりついて、涙ながらの声も小さく「良く来て下さいました。貴方の他に私たちを導いて下さる人はおりません。貴方は不幸な囚人の言葉を聞きました。彼は何者ですか。死に際にどんなことを言いましたか。」

 長老は払いのける力もなく、椅子の方に行き、「罪深いことをする子ども達を救いに来ました。」とつぶやいた。先刻、墓場から皆の後ろについて来たのもこの長老だった。これから、長老はどんなことを話すのだろう。

つづきはここから

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