巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

aamujyou77

噫無情(ああむじょう)  (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

ビクトル・ユーゴ― 作  黒岩涙香  翻訳  トシ 口語訳

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噫無情    仏国 ユゴー先生作  日本 涙香小史 訳

   七十七  青年の富

 けれど守安は此の様な事は知らない。我が隣の部屋に何の様な家族が居るか、それさえも気に留めずに下宿して居たが、是からの彼の貧苦は、実に何の様にして凌ぐことが出来たかと怪しまれる程であった。寒い夜に火も無い。燈火も無い。夜具も無い。そうして三日も食わずに震えて寝て居る事も有った。外へ出て人に見られる着物も無いから、出るのは毎(いつ)も夜で有った。

 この際に、何うして聞き付けたか、養家桐野の伯母御から金貨で百円送って来た事が有った。けれど彼は、
 「人の情けは受けませぬ。」
と書き添いて送り返した。何してその様な強情を張ることが出来たのか不思議な程であるが、ここが彼の天性の強い所なんだろう。それに一つは青年の意気と言うものだ。

 アア青年。青年と言うほど世に幸福な者が又と有ろうか。彼は決して貧を知らない。衣食は貧でも、心に於いて富んで居る。それだからたとえ一国の皇帝でも、年を取れば、路傍に居る青年が羨ましい。青年は年齢に富んで居る。未来に富んで居る。此の後の変化に富んで居る。青年の向かう所には困難無しだ。

 他人は兎も角、此の本田守安のみは、此の様な軒昂《奮い立つ》たる意気で、艱苦(艱難辛苦)を忍び、夜に成ると、「ABCの友」の一人の取次で、或書店から写字の仕事を引き受けて来て、僅かな筆料を命の綱として居る。



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