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悪党紳士 (明進堂刊より)(転載禁止)
ボアゴベイ作 黒岩涙香 翻案 トシ 口語訳
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悪党紳士 涙香小史 訳
序
悪党紳士とは面白し、如何なる者を悪党紳士と云うか余未だ之を知らず。余知らざれども読者既に知らん。此は是れ先に絵入り自由新聞に連載せし小説にて方今(ほうこん)普(あまね)く人の知る涙香先生の筆に成るものなり。故に読者の知る処なり。然れども余は全く知らず。知らざるには有らねど原文紙面を一読する能はざればなり。予は久しく書売りを業とし、而して其の暇無き為め未だず此の全文を知らず。然るに或る人告げて曰く、絵入り自由新聞に似而非(にてひ)と題するあり。即ち涙香黒岩先生の訳に係る者なり。其の事柄の喜々として能(よ)く人情に通じ、一読三嘆に絶へざるものなり。是一部の書冊として再び世に公にすべしと。是に於いて予其人に謝し、直ちに腕車を走らせて之を訳者に問ふ。先生答へず、只冷笑するのみ。予又問ふて曰く、似而非(にてひ)とは如何なる者か。希(ねがわ)くは之を聴かんと。先生曰く、此原名は即ち閉じたる口と云ふ義なり。故に對(こた)へず、亦之を似而非(にてひ)とせしは紳士に似而(にて)紳士に非(あら)ずとの意なり。然れども若し一部の書冊と為さば寧ろ悪党紳士として然らん可と。予即ち其意を悟り、請ふて以って活字に附す。時に友人富田君来たりよって此説を談話す。君好んで之を請ふこと切なり。就(つい)て其辞するを得ず。是に至って之を譲る時に序(ついで)をと請ふ。余不審に堪へず。序(ついで)とは何ぞ君。序(ついで)とは即ち序(じょ)なり。序なふては如何にせんと。余案を叩ひて曰く。ハハア序(ついで)、嗚呼序かと空言を書して巻首に題すと解云。
扶桑橋の辺に住む
明治二十三年三月 夢廼家さむる識
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