巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

gankutu120

巌窟王

アレクサンドル・デュマ著 黒岩涙香 翻案  トシ 口語訳

since 2011. 4.14

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史外史伝 巌窟王    涙香小子訳

百二十、「血の雨」

 春田路;「短銃の音に続いて、怪我をした人の呻くような声も聞こえ、どたばたと取っ組み合う音も聞こえました。そうしてそれと同時に私の顔の辺に何やらしずくが垂れるのです。多分雨が漏るのだと思いましたが、後で見たら人の血でした。二階で血の雨を降らせたのです。

 そのうちに物音はやみ、誰か一人下りて来た様子です。ハテなと思い起き返って覗きますと、毛太郎次です。手に小さい箱を持ち、灯火のそばに寄ってその蓋を開き中の品を改めましたが、まばゆいばかりの夜光珠です。彼は慌てて蓋を閉じポケットに押し込んで外へ飛び出し、闇の中へと姿を隠してしまいました。

 「この時です、私は初めて気が付き、さては彼、毛太郎次、珠玉商人をどうかしてダイヤモンドを取り返したに違いない。もし人殺しの様な事でも有りはしなかったかと、疑いながら隠れ場を出て、ランプを手に持ち二階に上って行きました。実に驚きました。階段の上に倒れているのが毛太郎次の妻で、商人の撃ったピストルに喉を貫かれて血まみれです。たぶん、よろめいて下り口まで来て死んだのでしょう。

 次の間に入るとあの商人が胸を包丁でえぐられて倒れています。これは毛太郎次にやられたのに違い無い。あたりは商人の荷物やピストルなどが血の中に飛び散っていて無残この上も無い有様でした。あまりのことにしばらく立ちすくんでいましたが、運の尽きとはこのことでしょう。昼間から私を追いかけていた憲兵が数人の手下と供に入って来て、身に血を浴びている私を直ちに殺人犯として捕らえました。

 「後で聞けば憲兵は宵のうちにこの長尾屋の辺まで追跡して来て、私を見失い、徹夜でその辺を警戒していたそうです。するとピストルの音がこの家から聞こえたので直ぐに手下などを呼んで来て踏み込んだのだと申します。それから私はニームの獄に送られ殺人犯として取調べを受けましたが、どうにも逃れる道が有りません。

 兎も角、第一に毛太郎次を捕らえてください。彼の行方が分からなければせめてはイタリアの暮内法師と言う人を探してください。二人のうち、一人でも現れたら、いくらか私の言いたてが真実である事が分かりますからと、こう審問官に願いました。審問官はもっともと思った様子で、この両人を十分に探させたと言う事ですが、三月あまりも経ってから、暮内法師という人が自分から名乗り出て、先にダイヤモンドを毛太郎次にやったいきさつを審問官に言い立て、直ぐ私へは面会を願ってくださったそうです。

 何しろ法師のことではあり、その言い立てと私の言葉とがぴったり合っていたため審問官も幾らか私を信じる気になったのか。直ぐにその面会を許可してくれました。実に暮内法師のような親切な方は無いと感じました。この様な方には、何もかもざんげしてしまう方が好いと思い、蛭峰に仇討ち(ヴエンデタ)を加えた事まで大部分の話しは申し上げました。

 法師はひどく哀れみを催され、その様な事ならば兎に角このたびの殺人者はお前ではなく、毛太郎次だから、なるべく私が力を尽くし、お前の助かるようにしてやると言って、大いに骨折ってくだされましたが、そのために獄の中の待遇が間もなく全く変わってしまい、それまでは殺人の嫌疑者で最も辛く扱われたのが、急に独房に写され、食べ物も改まり、牢番さえも大いに労わってくれることになりました。外の人なら見ず知らずの私に、どうしてこのように尽くしてくれるでしょう。実に暮内奉仕のご恩は深く肝に銘じました。

 「それから一年立って毛太郎次がつかまりました。彼は言葉巧みに自分の罪を死んだ妻に塗りつけて、その身は少しも手を下さなかったように言い開いた為に、兎も角死刑に一等を減じ、終身刑に処せられましたが、多分今頃は何処かの牢でもう死んだか、たとえ生きていてもついには牢死するのでしょう。私の方は既に密輸入だけの刑期を獄のうちで過ごしたので、彼の宣告と同時に放免になりました。

 「この時法師は新たな衣服まで作ってわざわざ迎いに来られましたが、私も今までのことを考え、密輸入などという商売が全くいやになりましたから、法師に向かいどうかお弟子にしてくださいと願いました。すると法師は、それよりも適当な仕事がある。巌窟島伯爵家の家扶(かふ)に推薦してやるから一生懸命勤めてみろと言って、貴方に宛てた推薦状を書いてくださいました。そのお陰でこの通り魂を入れ替えて貴方の召使とはなったのですが、しかし私は子供の時から曲がったことは大嫌いで密輸入をこそしはしましたが、一身の行いに不正直なところは少しも無かったつもりです。」

 伯爵は聞き終わって、「したがその後、お朝と弁太郎はどうなった。」
 春田路は又身を震わせ、「伯爵、これも思い出すのさえ恐ろしいような事になりました。」

第百二十終わり
次(百二十一)

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