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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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白髪鬼

マリー・コレリ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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白髪鬼

             (三十六)

 星子が私に親しむのは実に自然な血縁は争そえないからなのか、あるいはまたナイナやギドウのような偽りのある心は返って他の偽りを見破ることができないのだろう。
 私の白髪とサングラスの偽りに欺かれるものの、星子の胸に横たわる真の愛は私の偽りに惑わされず、何となく私を父のように思うのだろうか。

 とにかくも、私の膝は父の膝。私の手は父の手で、どちらも握り慣れている所なので、私のそばに来て何となく居心地が良かったのに違いない。
 私が忍び泣く様子、星子が親しむ様子、もしも二人に疑いを起こしはしないかと私は二人を盗み見たが、別に怪しむ様子もなかった。

 最も私は一度死んだ人間で、特にギドウは私の葬式にまで立ち会ったことなので、私が星子の父親ハピョだとはどうして思うだろうか。
 私はそのように見て取り、ようやく安心したので、又ハピョだとはどうしても考えられない作り声を出して星子に向かい、「おお、お嬢ちゃんの名前は星子、大きくなったら星のように仰ぎ見られるという、良い名前です。」

 星子はあたかも私の声が父の声に似ていないのを怪しむように少し考えて、
 「ああ、パパもそう言ってよ。」
 「そうだろう。そうだろう。」と言って私はその首をなで回すと、ナイナはそばから、

 「パパがお前を余りに優しくしたから、言うことを聞かない子になってしかたがない。パパが居るときはこれほどで無かったのに。」
 星子はこれを聞き物言いたそうに唇をふるわせたが言うことができなかった。私は更に星子だけに向かって、
 「このような良い子に優しくしなくてどうしよう。言うことを聞かないの、いたずらのとそんな事は無い、ねえ、星ちゃん」

 星子は依然として無言だったが、あたかも大人が辛いときに発するほどのため息をつき、その愛らしい胸を波打たせた。何か言えばますます叱られると恐れてのことだろうが、罪もないこの幼女に、誰がこのような遠慮とこのような恐れの習慣を付けたのか。

 やがて星子はその首を仰向けに私の腕にもたせかけ、訴えるような目で私を見上げて、
 「おじちゃんはパパを見たの、よそで見たの、パパはいつ帰るの」と聞いた。

 「おお、そう言うパパは私だよ。お前の顔を見、お前が悪人らに苦しめられているのを救うために、今この通り帰って来たのだ。安心しなさい、星子」と私は言いたいのと、抱きしめたいのは山々だった。

 実に私は計画に計画した復讐の一念を投げ捨てても、星子を我が子と呼び、星子にパパよと呼ばれたかった。ああ、私は何の罪で、今我が娘を見ながら、父よ、娘よ名乗ることができないのか。
 また、父として救う事ができずに、このような苦しい目に遭わされるのかと、感慨ほとんど胸に迫り、しばらくの間は声も出せなかった。

 この様子をどう見たのかギドウは自分から星子に答えようとするように前に進んで、
 「これ、小さいの、」名のある者を小さいのとは呼び方からして意地悪だった。

 「お前のパパは死んでしまったではないか。」と言い、更に私の顔を眺めながら、「死んだという言葉が分からないので、仕方がない。」と独り言のように言い、更に又、
 「遠いところに言ってしまったよ。お前が余りにいたずらだから、お前のような悪い子の居ない所に、逃げて行ったのだよ。お前が良い子になるまでは、二度と帰っては来ない。」 

 ああ、これはなんと意地悪な、またなんと、毒々しい言葉なのだ。私が居なくなった後は、いつもこのような言葉で星子を苦しめ、二言目にはいたずら、いたずらと責めるため、星子の幼心には、どうしたら叱られないか、どうしたら父が帰ってくるかとこのたぐいの心配が幼い胸の力に余り、自然と姿がやつれたのに違いない。

 それにしても星子はこの言葉を聞いても泣きもせず、恐れもせずに、私を後ろ盾と思うように、心強そうにギドウをいやしめ、辱めるようににらみつけた。幼児がこのような目つきをするのも不思議だが、これは実にロウマナイ一家の争われない目つきだった。

 たしか、私の父なども、笑うときは小児をも手なずけるほど優しい目つきをしたが、怒る目はほとんど三軍の将兵をもしり込みさせ、またさげすんで見る目はその人にあたかも冷水を浴びせたようで、ぞっとして身が縮む思いをさせた。

 他人のことは知らないが、私は何度もその目を見て、そのたびにそう思った。私の目もその目だと何度も知人から言われていたが、さすがにロウマナイ家の血を引く星子、幼いが争われないところがあると、私は密かに満足する暇もなく、ギドウはこの目を見てあざ笑い、

 「どうだ、あの生意気な目つきは、まるでハピョをそのままだ。この顔にこうして髭を生やしてやれば少しも違わない。」と言いながら、進んで星子をしっかと捕らえ、そのふさふさした髪の毛の先をつかみ、これを折り曲げてあたかも口ひげのように星子の鼻の下に当てようとした。

 星子は怒り、かつ嫌がり、もがいて私の手の中に逃げようとして、ますますもがくと、ますます引き離そうとし、見るに耐えないほどいじめたが、ナイナはただ微笑むだけだった。
 ああ、何と、無情な奴らだ。私は腹立たしくわっとせき込み、ほとんどひったくるようにして星子を引き離して、我が手にしっかと抱き、あわや、大渇一声に魏奴を叱ろうと口まで出たが、

 イヤイヤと思い直し、ただ、しっかりした声で「おふざけなさるな、花里さん、力無い者に力を加えるのは禽獣の振る舞いです。」とたしなめた。
 私は優しく言ったつもりだったが、それほどは優しくなかったと見えて、魏奴は笑いながらも非常に不安げに、さながら飼い主に叱られた猿のように、窓の所に退いて、ただ外の方を眺めた。

 私はナイナに向かって、
 「本当に子供は育て方が重要です。小さいときに苦しめられれば、成長して意地がが悪くなります。特に、ロウマナイ家の気質は昔から恨みも恩も忘れないことにありますから、幼児だと言っても軽視できません。」

 ナイナもさすがにギドウの振る舞いのやりすぎを思ってか、真実に私の言葉に賛成するような目で、私を見上げ、
 「本当にそうですよ、その代わり貴方のように優しくしてくだされば、そのご恩は成長して後まで覚えているでしょう。母までも有り難いと思います。」

 ああ、これほどまでも妖婦の口は達者なものか。

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