巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

ikijigoku60

見出し1

活地獄(いきじごく)  (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

ボア・ゴベイ 作  黒岩涙香  翻訳  トシ 口語訳

since 2018.6. 29

下の文字サイズの大をクリックして大きい文字にしてお読みください

文字サイズ:

 

   活地獄(一名大金の争ひ)    黒岩涙香 訳

   第六十回 掘り終わった瞬間
 
 上田、町川両人が認めたのは確かに角燈の光である。四個の松明焚(燃)え盛る傍らに、何用あって薄暗い角燈を掲げているのだろう。栄三は合点が行った様に、
 「フム彼(あ)れは二人が携(下)げて来た角燈だ。仕事が済めばあの松明を消し又角燈を照らして帰るのだ。」
 町「イヤ爾(そう)でないよ。アノ角燈の動く様子を見給え。誰かが立って角燈を提げて居るのだ。」

 云う中にも角燈は徐々(そろそろ)と動いて、次第に鳥村等の背後の方に寄る様に見えるので、
 栄「成るほど爾(そう)だ。人が提げて居るのに違いない。真逆(まさか)彼等の手下とも思われないが誰だろう。」
 町「爾(そう)サ。手下ではない。手下なら是ほど骨の折れる仕事を、傍観して居る筈がないから。」

 栄「だからと言って、彼等の敵でもあるまいし。」
 敵と云う言葉に町川は忽(たちま)ち思い附く事あり、
 「敵だ敵だ。彼等の敵に違いない。」
 栄「でも敵とは誰の事だ。」
 町「毎(いつ)も僕が話した栗山角三の事さ。彼奴(きゃつ)も鳥村と同じく、彼(あ)の遺言書を捜して居たから、終にお梅の事から此の穴の秘密までも探り出し、今夜必ず鳥村と同じ目的でここへ来たのだ。」

 栄「だって彼奴は国事探偵ではなし。鳥村の様に我党の秘密や此の穴の事を知る筈がない。」
 町「イヤ自分に関係のない遺言書の事まで、当人の柳條より先に知る位の男だから、何うかして聞き知ったかも知れない。それに又事に寄ると、鳥村の後を尾けて、知らず知らず此の穴まで従(つ)いて来て、それで秘密を知ったかも知れないと云う者サ。

 爾(そう)だアノ通り幾個も柱を掘り倒しある所を見れば、鳥村が今まで幾度もここへ来たから、必(きっ)とその時に後を尾け、それで今夜は宵の中に酷(ひど)い雨風であったから、此の様な時なら鳥村が来て居ないだろうと、抜け駆けの功名をする積りで遣って来た所ろ、矢張り鳥村が来て居たから、止むを得ずその背後に佇立(たたずん)で居るのだ。」

 栄「シテ見ると矢張り吾々と同じく鳥村を殺す積りかな。」
 町「無論爾(そう)だろう。見たまえ、アノ灯が次第次第に柱の傍へ寄って行く事。」
 栄「併(しか)し栗山と云うのは、一人で鳥村とその手下とを相手にして戦おうと云う様な大胆な男かネ。」

 町「イヤそれほどの勇気はあるまいが、何でも自分一人ではなく矢張り手下を連れて居るだろう。」
と言って又もその方を眺めるうち、次第に柱に近づくに従い、松明の遠明りで三人の姿が闇の中に現われて来た。」
 町「ソレ見給え、彼れ一人ではない、アア爾(そう)だ。後先に居るのが彼の手下で、彼れは真ん中に居るのだ。アノ背(せい)の低い奴が必ず彼だ。」

 栄「併し不思議だなア。愈々(いよいよ)鳥村を殺す積りなら、何もアノ様にグズグズする筈はなく、直ぐにその背(うしろ)から三人で飛び附き相な者だが。」
 町「イヤその様な大胆な事はしない。彼奴は中々の狡猾者だから、察するに鳥村等が仕事の終わるのを待って居るのだ。愈々(いよいよ)遺言書を取り出した所で、殺して仕まえば直ぐにその遺言書を引き浚(さら)って立ち去る事が出来るから。」

 栄「成るほど、卑怯な奴等だワい。」
 町「それに彼奴等は何でも短銃を持って居るよ。鍬で頭を叩き割るのは危険だから、アノ頽(くず)れて居る二本目の柱の影から合図を揃えて、短銃で射る積りだ。」

 栄「成るほど爾(そう)の様だ。併し爾(そう)ならば我々は少し困るじゃないか。」
 町「ナニ困る者か。その後で又角三等を殺して仕舞えば良い。詰まり三組とも同じ目的を以ってここへ来て、一番後(遅)れて着いた我々が第一の利益を得るのだ。」

 栄「併しそれは二重の人殺しと言う者だ。」
 町「ナニ構う者か。老白狐の鳥村を殺すのも、栗山角三の連中を殺すのも同じ事だ。」
 栄「イヤ大違いだ。老白狐は我々に対して一方ならない悪事を働いて居るのみならず、現にお梅を誘き寄せて、活き埋めにせられる様な場合にしたのも彼だけれど、栗山は我々に対しそれほど悪事を働いた事はないもの。」

 町「ナニ君柳條健児の財産を百万法だけ掠(かす)め取ろうと云うのだもの、その憎むべきは同じ事だ。」
 栄「イヤ大いに違う。僕は何うも栗山を殺す事は出来ない。」
 町「君が厭なら僕が殺す。ナニ不意を打てば、一人で三人を相手にするのは易いことだ。それで若し僕が危くなった時には、君助けて呉れるだろう。」
 
 栄「君が危くなればそれは助けるとも。我が友人の危難を救うのは人たる者の義務だもの。」
 町「好し好し、万一の時に助けて呉れさえすれば、僕は安心して彼等と戦う。」
 栄「でも何うして戦う積りか。」

 町「ここで待ち伏せして居るのサ。ここなら最も場所が良く、彼等の仕事が悉く見えるから、彼等がその目的達して帰って行く所を、横合いから出て遣附(やっつ)けるサ。外に道がないから此の出口を通らない訳に行かない。」
と二人が問答する間に鳥村等は益々仕事を運ばせ、早や彼(あ)の柱に大いなる穴を開けた。

 最早や袋の死骸を引き出すのには充分だと思ったので、鳥村は鍬を置き自ら穴の中にその頭を突き入れた。角三等は今こそと思った様に、三人斉(ひと)しく柱の傍まで進み出て、短銃を差し出だし大方狙いを定めたけれど、鳥村再び首を退き、

 「猶(ま)だ猶だ」
と云う様な身振りをして、又も掘り頽(崩)しを始めたので、角三も今殺すのは未だ早いと思ったのか、短銃を提げ徐々(そろそろ)と身を隠した。
 町「何うだ君、芝居でも此の様な見物(みもの)はないよ。」
 栄「イヤ無駄口を云う内に、もう大方アノ柱を頽(崩)して仕まった。アレ角三等が又一足進み出た。」

 実に此の時の有様は、絵に描くのも難しかった。鳥村は再び手下と共に鍬を置き、穴の中を検めようとする。角三は何時でも鳥村等に認められ次第、敵が我を襲うべき暇がない間に、我から敵を射留めようと油断なく短銃を握り締める。実に一髪千斤を釣るの時である。栄三も友介も殆ど息を凝らしていたが、此の危うき瞬間に当たって。

次(第六十一回)へ

a:40 t:1 y:1

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional

巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花