巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

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島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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        (二百十二) 江南又も勝誇る

 
 是で江南の犯罪の筋道は、悉(ことごと)く数え上げられた。何所に言い抜ける遁(にげ)路が有ろう。流石の江南も、言葉が喉に詰まった様に、只目を白黒した。けれど其の中に、漸(ようや)く思案が浮かんだと見え、白ばっくれる様に、又も声を放って笑った。
 其の笑い声は、極めて不自然な、苦し相な音調で有ったけれど、其れでも大いに笑った。

 「アハハハハ、贋髯(にせひげ)だの写生画だのと、私の少しも知らない事柄です。成るほど路田梨英が、是は君を写生したのだよと云って、私へも一枚のスケッチを見せた事が有ります。けれど私は単に、彼の思い違いと知って居るため、深くは争いませんでした。

 其の写生画が、或いははワルシー市の書記が見たと云う人と、同じで有るかも知れない。けれど、孰(いず)れにしても、其れが此の蛭田江南だなどとは、飛んでも無い間違いです。私は贋髯など付けた覚えが有りません。其れに網守子さん、良くお考え成さい。

 私は鰐革の袋を、自分の手に触れさえせず、ソッくり其の儘(まま)辞退したのですよ。私が其の紅宝石(ルビー)を欲しがるならば兎も角、自分から辞退する程であるのに、何で人の戸籍など切り取りましょう。誰が何と云っても、検事が其の言葉を信ずる者では有りません。」

 網守子は此の弁解で、自分の言葉が悉く砕かれて了(しま)った様にも感じたけれど、添子の方はそうでは無い。江南が、其の紅宝石を欲しがった事が無いなど云うのを聞き、呆れの上に更に呆れを加えるのみである。
 其れでも網守子の信念は動かない。如何に言葉巧みに言い抜けても、江南の為所(しわざ)であることは、ギラギラと明るい程に思って居る。

 「貴方は紅宝石を辞退したとしても、第二女梅子の戸籍を切り取って置けば、梅子の子孫が分から無い為、終には第三女竹子の子孫の貴方へ、転がり込んで来るでは有りませんか。其れだから戸籍を切り取って置いて、一旦は辞したのです。辞して置いて、其の中に自分へ転がり込んで来る者と、気長く待って居ます。」

 網守子の知恵では、こうと思うより以上の考えは出ないけれど、此の疑いは全く星を外れている。星を外れた疑いが、敵に徹(こた)える筈は無い。
 果たして江南は、勝ち誇る色に返り、

 「あの紅宝石が、通例の遺産ならば、第二女の子孫が無ければ、第三女の子孫へ転がり込みますけれど、あれは法律で云う遺産と違い、貴女が好き勝手に、贈与する様な者で有りますから、貴女に憎まれて居る、私の物と為る筈は無いのです。何で私が転がり込むのを待つ様な身になりましょう。」

 網守子は、ほとんど返す言葉が無い様に思った。此のまま云い込められて立ち去るのだろうか。


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