巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花、青空菜園、晴耕雨読、野鳥、野草

黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

simanomusume33

島の娘    (扶桑堂 発行より)(転載禁止)

サー・ウォルター・ビサント作   黒岩涙香 訳  トシ 口語訳

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            (三十三) 貴方が教えて遣れば

 江南「だが、和女(そなた)は段々気に入られるだろうね。」
 添子は何しても舞台気がある。妙な手を上げて押し付ける様に、
 「所が其れが可(いけ)ないの。何うしても可(いけ)ないの。」
 江南「何で可(いけ)ない。何より先に当人の気に入られる様、痒い所へ手の届く様に立ち廻らなければ成ら無いと、懇々と言い含めて置いたのに。」

 添「其れは私の事ですから、勉まる丈は勉めて居ますがね。向こうが私と全く性格が違うから!」
 江南「人の気に入られようと思うには、勿論自分の性質を、曲げなければ可(いけ)ないのさ。」
 添「曲げても可(いけ)ません。何から何まで自分でする性格で、部屋の飾りでも、衣服の好みでも、一々私と違います。私が好かろうと勧めることは、皆先が嫌いなんです。」

 江南「新しい女には、新しい女の様に仕向けなければ。」
 添「其れが大違いですよ。少しも新しく無いのです。彼(あ)の様に見えて居て、少しも開放された所が無く、ナアニ、新しい女なら、決して私が負けはしませんがね、何から何まで旧思想です。」

 江南「日々何をしている。」
 添「断間(たえま)なく何事か独りで稽古して居ますの。」
 江南「では和女が教えて遣れば好い。」
 添「何うして、何うして、何事でも私の倍も出来ます。」

 江南「稽古とは何の様なことを。」
 添「大抵は今迄習ったのを、独りで演習(さら)って居るのです。絵画とか、音楽とか、外国語とかーーー其れは其れは驚きますーーー。イタリア語でもフランス語でも、ドイツ語でも知って居ます。其れに此の頃は、詩の稽古をすると云いましてねーーー。アア詩と画とは貴方が教えて遣れば丁度好い、私からそう云ってみましょうか。貴方の様な有名な天才に、稽古を受けることは必ず喜びますよ。」

 江南は、是れ幸いと飛び付くかと思いの外、
 「イヤ、弟子を取ることだけは面倒で、私には出来無い。」
 如何にもそうであろう。彼は自分の妻にさえ、大天才と信ぜられる程の才子である。けれど、弟子に教えることだけは、出来無い理由がある。

 添「其れでね、先日から新聞紙に広告して、詩の師匠を募りました。毎日毎日応募者が来るけれど、師匠より弟子の方が良く出来る者ですから、皆断られて、三、四日前に一人の田舎出の女学生の様なのが来ましたが、是が即席に、天才の輝く様な旨(うま)い詩を作ったとやらで、大層気に入って約束が決まり、毎日時間を決めて、此の家へ通勤する事と為りました。前額の出た目の円い、厭な女ですのに、何処が気に入ったのか、其の後、約束の時間外にも招き、来ると永い間引き留める。今日も一緒に何処かの美術館へ見物に行きましたよ。」

 此の女詩人の事を聞き、江南は首を傾けるべき筈であるに、心が金の事に集中して居る為か、気も付かずに聞き流して居る。

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