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黒岩涙香の巌窟王、鉄仮面、白髪鬼、野の花の口語訳、青空菜園、野鳥・花の写真、ピアノ、お遍路のページです

鉄仮面56

鉄仮面  

ボアゴベ 著   黒岩涙香 翻案   トシ  口語訳

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           第四十七回

 牢の中でうめいているとは、勇士モーリスにあるまじき振る舞なので、コフスキーは怪しがって、眉(まゆ)をひそめたので、バイシンは何か疑っているなと見て、「いや、牢番の話によると、まだ不思議な事があるのです。鉄仮面が時々オリンプ夫人の名を呼び、
俺がこんなに苦しい思いをしているのに、オリンプ夫人はなぜ救ってくれないのか、ええっ、もう見捨てられたのか、などと叫んでいると言うことです。」

 「しかしこれは牢番の作り話だと思われます。オリンプ夫人から牢番に約束した褒美(ほうび)の金は、所長の年金よりも沢山ですから、そのため牢番がオリンプ夫人をせかすため、こんな事を言っているのだと私はただ聞き流しているのです。」

 コフスキーも初めて納得したように「なるほど、そうでしょう。よしんば、オービリヤにしたところで、まさか、夫人の名前は呼ばないでしょう。どちらにしろ、助け出せば分かりますから、その様な心配は無駄だとして、ただ一つ伺いたいのは、全くその牢番の力で鉄仮面を救い出すことが出来ると思われますか?」

 「多分、出来ると思われます。結局、牢番はただ道具を鉄仮面に渡すだけの事で、その後は、鉄仮面が自分でやり遂げなければなりません。ですから、ヒリップのような意気地の無い者なら、事によると、牢を破るほどの勇気がなく、道具をもらってかえって、迷惑するかも知れませんが、モーリス殿なら十分に。」

 「はい、それはもう、モーリス様なら外に仲間が待って居ると思い、どの様なことをしてでも出てきます。そして、出てきた所で、第一に鉄仮面の所に行き、オービリヤかモーリス様か見分ける役には、私が当たらせていただきます。」「そして、もし、ヒリップであったなら、貴方はオリンプ夫人に渡さずに、すぐにその場で殺してしまう積もりでしょう。」

 「いや、隠してはいけません。貴方の考えはそうに違い有りません。成るほど、それも、もっともですが、オリンプ夫人の身に成って見ればどうでしょう。折角、鉄仮面を救いだしそれがヒリップだったのに、自分の所にくる前に貴方に殺されてしまったと思ったら、あきらめがつくでしょうか? 」

 「オリンプ夫人はもうヒリップのために今までの身分も忘れ、彼が牢から出て来たら、すぐに引き連れて外国に出て行くと言っています。それほどに思っているのを、貴方にむざむざ殺させては、私が余りにオリンプ夫人に対し何もしないことになりますから、ここは好く両方の為を考え、約束を決めて置かなければなりません。
 鉄仮面がモーリス殿ならもちろん貴方とバンダさんが引き取るし、ヒリップならば貴方がたは、彼に対する恨みをきれいさっぱり忘れ、オリンプ夫人に渡さなければなりません。」

 「一度オリンプ夫人に渡した後で、改めてかたきを討つなり、決闘を申し込むなり、あるいはオリンプ夫人が外国に連れて逃げれば、その行く先まで追って行き、恨みを晴らすだけの事をするのは貴方がたの勝手です。それを一度もオリンプ夫人には渡さないと言うようではこの話はまとまりません。」

 コフスキーはバンダとは違い、多分、鉄仮面はオービリヤだろうと思っていた上、今又牢の中でうめくと聞き,益々オービリヤだと思えるので、心の中では面白くなかったが、オービリヤが生きていれば主人モーリスは死んでいるのだから、彼を救いだしたらすぐに殺してモーリスの仇敵を打たなければならないが、

 それをオリンプ夫人に渡さなければならないのは、不本意な事なので、まだまだ話合いをしなければならないと思ったが、オリンプ夫人に恩を受けたバイシンの立場も考えると、これ以上言い争いも出来ずしばらく考えた後で「バンダ様、貴方のお考えはいかがてすか。鉄仮面がオービリヤならどうしますか。」

 「オービリヤなら、あの様な者に用はない。どうとでもお前とバイシンに任せます。」バイシンは了解して「それではこう決めて置きましょう。鉄仮面が出て来るのは何日の夜か、大抵前もって分かりますから、その夜は私とオリンプ夫人とが第二塔の後ろに行き、隠れていますから、貴方がたも家でその便りを待っていると言うような、気の長いことも出来ないでしょうから、同じ場所におい出なさい。」

 「ですが、オリンプ夫人と顔を合わせ、かれこれ面倒な争いになっても困りますから、貴方がたは塔の右手の堀の外で見張りなさい。私達は左手に隠れています。そうして、鉄仮面が出て来たと見たら、私が第一にその側へ迎えに行きます」

 「いや、たとえオービリヤでも、冷静にオリンプ夫人に渡すと約束をしておけば、私が出迎えても良いでしょう。この役はどうしても私が適当です。外へ出たと言っても鉄仮面をかぶっているでしょうから急にはオービリヤかモーリス様かは分かりません。私が側に行きただ一言モーリス様と声を掛ければすぐにどっちか分かりますから。」

 バイシンはもっともだと思ったようで「なるほどそうです。それではもしオービリヤだった時にはそのまま夫人に引き渡すと言う約束をしますか?」「はい、約束します。」「それほどまでにおっしゃるなら、よろしい。貴方が第一番目に出迎えると言うことに決めて置きましょう。」と言ってようやく相談がまとまり、鉄仮面を救い出すと言うことに決まったが、果して決めた通りにうまく行くだろうか。

つづき第48回はここから

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